MS/MSの有効性


 
 

PMFによる蛋白質の同定

サンプル蛋白質(図のX)をTrypsinなどで酵素消化した後 にMALDI-MSにより測定すると、酵素消化断片ペプチドが 検出されるので、得られた質量値を取り出してピークリスト (PMF)を作成する。蛋白質データベース側で予め計算に より理論的に作成された、登録されている全ての蛋白質の ピークリストと、得られたPMFを照合することにより蛋白質を同定する。質の高いPMF(多ピーク、高精度)が得られれば通常はもっとも高いスコアを示したデータベース上の 蛋白質(図では#P1)が正しい結果として同定される。

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ESI-MS/MSによる蛋白質の同定

ESI-MS/MSからの解析では、酵素消化断片ペプチドの質量値(PMF)に加え、さらに各ペプチドのMS/MS測定からのプロダクトイオンの質量値情報まで得られる。通常はy シリーズイオンが主に得られる傾向があるので、これが検出されてマッチングした場合は、アミノ酸情報を強く示唆したこととなる。データベース検索で用いるピークリストはア ミノ酸配列まで反映したものから構成され、PMFよりもより多くの情報を含むため、検出された酵素消化断片ペプチドピーク数が少なくてもマッチングの信憑性は非常に高くなり、曖昧なマッチングで悩むことがない。

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MS/MSの有効性1

PMFによるピークリストは、得られたペプチドピークの質量値である数字のみの情報となるが、ESI-MS/MSによるピークリストはアミノ酸配列を反映したより多くの情報をもつものとなる。このため、検出された酵素消化断片ペプチドピーク数が少なくてもESI-MS/MSでは同定の信憑性、成功率が高くなる。

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MS/MSの有効性2

微量蛋白質や、酵素消化されにくい蛋白質では、得られる酵素消化断片ペプチドピーク数が少なく、しかもバックグラ ンドのピークまでが大きく検出されてしまう。従ってこのような場合に得られるPMFからのピークリストは、ピーク数が少なく、しかもバックグランドの観測質量値までをも含んだ信憑性の低いリストになるため、蛋白質を同定することは難しいか、またはあたかも何らかの蛋白質がヒットしているかのような誤解を招く同定結果が得られてしまう。これに対してESI-MS/MSの場合は、通常1価イオンとして検出されるバックグランドピーク群の中から、通常多価イオン(2価(2+)や3価(3+)など)として検出されるペプチドピーク を選別してMS/MS測定を行うことができ、ペプチドピークについてのみのピークリストを作成することができる。ペプチドピーク強度が小さい場合はMS/MS測定も難しくなるが、 少ないペプチド数の場合でも質の高いMS/MSスペクトル(一連のyシリーズイオンが高精度で検出されたもの)が得られれば(少なくとも2つのペプチドピークについて)、蛋白質を同定することができる。

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